前回、日英翻訳で用語集による一括置換を行ったところ、「非鉄金属」が「非 iron gold 属」となるなど、不適切な置換が起きてしまいました。今回は、用語集による(一括)置換を行う場合の注意点をまとめたいと思います。
まずは、SimplyTerms(ST)ヘルプの「用語集」には、以下のような注意点が書いてあります。
(引用ここから)
用語集による一括置換には、以下のようなメリットがあります。
・訳語がクライアントごとに異なっていても覚えておく必要がない
・訳語のチェック(用語集の検索)が不要
・登録訳語は入力が不要になる
・英日混じりだが、基本的に原語の論理で読み下せる
しかし、限界と副作用もあります。一番大きいのは、以下の点です。
・文脈によって大きく変化する用語を用語集に登録しておくと、誤訳につながる
このような副作用を避けるため、基本的に、以下のような用語だけを登録することをお勧めします。
・専門用語
・固有名詞
・クライアント固有の用語
これ以外の用語は慎重に取り扱ってください。また、訳していてどうも文脈に合わないと思ったら、必ず、原文に戻って考えてください。
(引用ここまで)
メリットの一つ目、「訳語がクライアントごとに異なっていても覚えておく必要がない」。
これは、例えば、「interface」の訳語として、クライアントAからは「インターフェイス」、別のクライアントBからは「インターフェース」を指定された場合、クライアントAの案件には「interface(tab)インターフェイス」と登録した用語集を使い、クライアントBの案件には「interface(tab)インターフェース」と登録した用語集を使うことで、いちいち「あれ?インターフェイスだったけ?それともインターフェース?」と頭を悩ませる必要がなくなります。
メリットの三つ目、「登録訳語は入力が不要になる」。
これは、訳文を作るときに、置換された後の単語をコピー&ペーストすることで、いちいち入力する手間が省け、また入力ミスも減らせます。
例えば dichlorodiphenyltrichloroethane (ジクロロジフェニルトリクロロエタン:殺虫剤のDDTのことです)と言う単語がでてきたとしましょう。英日でも日英でも、これだけ長いと入力ミスをする可能性があります。こういう長いもの、また綴りが複雑なものは、毎回ポチポチとキーボードから入力するのではなく、置換しておいて、それをコピー&ペーストした方が圧倒的に楽です。
※このコピー&ペーストの作業は、単語をマウスで反転させた後、メニューからコピー(またはペースト)を選ぶ、キーボードのショートカット(Ctrl+C, Ctrl+V)を使う、マウスの右クリックからコピー(またはペースト)を選ぶ、といろいろ方法がありますが、STに同梱されている秀丸マクロ(Copy_Lst)を使えば、コピー&ペーストが一回でできます(後日紹介します)。
デメリットの「文脈によって大きく変化する用語を用語集に登録しておくと、誤訳につながる」。
例えば「agent」という言葉の場合、英和辞書で最初に出てくるのは、代理人、代理店といったものですが、私が専門としている化学では「a chemical agent(化学薬品)」「a reducing agent(還元剤)」というように、薬品、試薬、~剤というように使われます。このような、文脈次第で大きく意味(訳語)が変わる言葉を用語集に登録し、翻訳前に一括で置換すると、訳していくときに「ん?『chemical 代理人』?ああ、化学薬品扱う業者さんね(本当は化学薬品なのに・・・)」という事態になりえます。
なので、やはり、用語集に登録して、翻訳前に一括で置換するのは、
・専門用語
・固有名詞
・クライアント固有の用語
程度に抑えておく方がいいのです(基本的に、活用する動詞などは置換しない方がいい)。
そして、翻訳を進めていって、その文章に何度も出てくる言葉があれば、そのときにその文章上で(全)置換すれば事足ります。
※この全置換を簡単に行う秀丸マクロもSTには同梱されていますので、後日紹介します。全置換しながら、「英語(tab)日本語」という、STで使える形式の用語集を作っていくという優れものです。
ここで、STの用語集のフォーマットの基本を説明しましょう。
英語(tab)日本語
これだけです。もし、後で用語集を見た人(自分や他の人)に何かメモを残したいときは、日本語のあとにタブを入れて、メモを書くことができます(置換の際は無視されます)。つまり、
英語(tab)日本語(tab)メモ
とすることができます。
このような単純な形なので、例えばこれまでに自分で蓄積してきたExcelの用語集や、インターネットで見つけた用語集なども、割と簡単に変換して使うことができます。
※英語側の末尾は基本的に単数形にしておきましょう。単数形にしておいても、英日翻訳で原文側が複数形のときには、最後に「@@pl」が付加され、複数形であったことがわかるかたちで置換されます。(不規則変化する用語は対応していないので、複数形も登録する必要があります。)
何度か用語集を使い、慣れてきたら、STヘルプの「用語集」の項目に目を通すことをおすすめします。英語側に二つ以上の単語からなる用語を入れた場合、どのように置換されるか、など書いてあるので、「あれ?用語集にあるはずなのに置換されてない・・・」などというときに読むと、原因が分かるかもしれません。
用語集を適用する際には、他に、「同じ綴りで意味が異なる単語」に注意する必要があります。
例えば、英日翻訳をするときに、1月(January)から12月(December)まで月の名前を登録した用語集を適用したとしましょう。そうすると、原文に助動詞のmayが含まれていた場合、その部分が「5月」と置換されてしまうのです。
なので、用語集を適用するとき、特に、自分で作ったのではない用語集を使う場合は、おかしな置換につながりそうなものはないか、事前に用語集の中に目を通してください。
「On the Backstage 翻訳者のための情報源」では、暦や地名、元素、サッカー用語などがSTで使える形で配布されています(ここ↓の【アーカイブ(用語集)】です)。
http://home.att.ne.jp/blue/onback/index.html
ただし、実際に使用する前に、必ず自分で、内容に目を通してください。
私は化学を専門としているので、元素の用語集を使う際の注意点をいくつか(自分の失敗例です^^;)。
・英日の場合
silicon(ケイ素):siliconだとケイ素(Si)ですが、siliconeだとシリコーン樹脂(-SiO2-)になります。SimplyTermsの一括置換では、複数形も自動的に置換してくれるのですが、「silicones」を「ケイ素@@pl」と置換してしまうので要注意です。
lead(鉛):動詞のleadも鉛と置換されてしまうので、例えば「All roads lead to Rome.」が「All roads 鉛 to Rome.」となります。
・日英の場合、
金、銀、銅、鉄、鉛など日本語が一文字のもの:「SimplyTerms:日英翻訳の場合」でもあったように、文章によっては思わぬ置換が起こるので要注意です。
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